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『After Bitcoin 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』を読んで

2018-01-04 23:00:00 +0900
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『After Bitcoin 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』を読んだ。筆者は日銀出身の決済分野の第一人者で、今まで読んできた暗号通貨やブロックチェーン関連技術の本とは毛色が異なり、情報量も豊富で勉強になった。

筆者の主張は、ビットコインは中長期的に見て金融の本流になることはないが、その中核技術であるブロックチェーンは「本物の技術」として、金融の仕組みを大きく変えることになるかもしれないというもの。

Bitcoinの展望

Bitcoinは、ダーティーなイメージや事件による信頼の低下、資産保有分布の不健全な偏り、発行上限数やリワード半減期等の仕様の問題、ブロックサイズ問題による分裂騒動、政府による規制、等々様々な問題が現状山積していることを指摘。

こういった問題から、BISの報告書を引用しながら、Bitcoinは限定されたユーザーに留まりこれにより金融世界の根底から覆すものにはならないと主張している。

自分も、Bitcoinは、ブロックチェーン技術の最初の応用例であり(もちろんブロックチェーンはBitcoinを産むために考え出された技術だと思うが)、たしかに技術・仕様的に厳しい面があり、first mover advantage により現状の地位・一般の関心を保っている部分が大きいと思う。

本書の面白いのは、ブロックチェーン技術を実際の金融業界に具体的にどう応用していくか丁寧に解説している部分に思う。金融業界のプロフェッショナルが、現状の金融業界の仕組みを解説しつつ、その上でブロックチェーンをどのように応用していくのか、「中央銀行のデジタル通貨発行」、「国際送金」、「証券決済」を中心に解説している。下記はその中でも自分が面白いと思ったものの覚書。より掘り下げるには本書を読んでいただければと思う。 

ブロックチェーン関連技術に関して

ブロックチェーンとは、電子的な資産の所有権を登録しておき、その所有権を安全かつ即時に移転させるのに適した仕組みと定義し、

このブロックチェーンを、

・ブロックチェーン 1.0: 仮想通貨
・ブロックチェーン 2.0: 金融分野への応用
・ブロックチェーン 3.0: 非金融分野への応用

と分類している。

本書では、この分類においての 2.0 でのブロックチェーンの使われ方を解説している。

このブロックチェーン関連技術の特徴として3つ上げ、「改ざん耐性」、「高可用性」、「低コスト」がある。過去にもIT技術を使って、金融業務を効率化できないかと考えることは多くあったようだが、コストがかかり過ぎてしまったり、デジタルな資産が不正にコピー等されてしまう可能性を完全に排除できないこと等の壁があった。これらを解決しうるかもしれないということで、各国の中央銀行が実証実験を開始し、方法を模索している。

そもそも保守的な中央銀行がこぞってこの分野に注目しアクションを取っているのは、この技術がいかに可能性があるかを伺わせる。金融取引コストが低く利便性の高い環境を用意できる中央銀行が、おのずとその国に多くの社会的利益をもたらし、国際的な金融取引の中心的な市場になるのは歴史的に明らかであり、そのためにしのぎを削っている。

以下では、本書で解説されてたいくつかの応用例をみる。

中央銀行によるデジタル通貨発行

中央銀行が通貨の電子化を検討するのは歴史の必然であるとしている。これは、過去に通貨というものがその時代ごとの最新技術を使いアップデートし、貨幣を便利にしてきたという背景があるからである。今この時代で通貨を進化させる1つの大きな可能性がある案として電子化がある。日本の中央銀行は、1990年ごろに「電子現金プロジェクト」と名付けられた基礎的な研究を行っていた。このプロジェクトの関係者には、厳しい箝口令が敷かれていたが、筆者はもう時効だろうと概要を本書で説明している。

この「電子現金プロジェクト」でも課題に上がっていた、通貨の電子化をするにあたって、難しい点が3つある。「転々流通性」、「匿名性」、「複製の可能性」がそれらだ。

「転々流通性」とは、通貨は、中央を通さずに国民の中を流通していくということ。ブロックチェーンを使わずに電子化を行うと、都度そのお金が正当なものかを中央と通信し正当性を保証する必要があるが、これにすごくコストがかかってしまう。Suicaのような電子マネーは基本この中央集権型のモデルを採用している。

「匿名性」は、現在現金が持っている性質だ。これを電子化すると現金の匿名性が失われてしまいかねない。このことは大きな抵抗が予想されている。

「複製の可能性」は、当時電子マネーの技術をベースに研究が行われていたので(ブロックチェーン等はなかった)、現金が複製されてしまう可能性を無視することができなかった。もしコピーを防ぐ技術が破られてしまうと、無限に現金が作られ経済は混乱してしまうい、なかなか厳しい課題の1つと思われていたよう。

こういった課題を解決し得るのではないかということで、ブロックチェーンが注目されている。

中央銀行マネーの形態として「銀行券」、「中央銀行の当座預金」という2種類がある。この2つが、通貨を電子化する対象となりうる。ここでは、個人や企業によって使われており、イメージがしやすく、実現した場合社会的インパクトが最も大きい「銀行券」をみていく。本書で解説されていたモデルは「現金型デジタル通貨」と「ハイブリッド型デジタル通貨」の2つある。

「現金型デジタル通貨」は、恐らくシンプルで分かりやすい。これは中央銀行が、国民に対してデジタル通貨を直接発行し、国民はネットワークと通じてお互いにこの通貨をやりとりして、支払い等を行う。この方式においては、いくつか課題があり、実現は困難だろうと予想されている。

まず、オープン型のブロックチェーンを採用するとこによる限界がある。厳格なコンセンサス・アルゴリズムによる取引のリアルタイム性の実現の難しさ、マイニングを行う主体、リワードをどうするか、悪意の参加者がいることを前提とすると、解決すべき課題がたくさんある。さらに、現在の民間銀行を中抜きしてしまうという問題。これは、銀行預金からデジタル通貨へ大量シフトしてしまう可能性がある。そして、銀行の主要業務である「為替業務」が不要になり、その結果さらに、銀行に貸出のための原資が少なくなることによる、経済活動の潤滑油がなくなってしまう可能性がある。また、そもそも中央銀行がデジタル通貨を国民に直接発行するということで、中央銀行が口座管理に関する膨大な業務を行う必要があり、これはそもそも中央銀行が得意としていることではない。

このように、「現金型デジタル通貨」は、イメージがしやすいが、課題がたくさんある。こうした問題を解決し得るモデルとして「ハイブリッド型デジタル通貨」が提案されている。

「ハイブリッド型デジタル通貨」は、デジタル通貨をまず中央銀行が民間銀行に発行し、それを民間銀行が企業や個人に対して発行するという2段階に分ける方法である。このモデルの典型的なものが「RSコイン」と呼ばれるもので、ロンドン大学の研究者が2016年に発表した。

「RCコイン」は主体をまず「中央銀行」、「銀行(ミンテッツ)」、「ユーザー」に分ける。「銀行」は「中央銀行」から認可を受けた主体であり、このことによりクローズド型の仕組みになっている。2段階とは、「銀行」が分散環境によりユーザーの取引を記録する「下位のブロックチェーン」を銀行間で共同で管理する一方、「中央銀行」は「銀行」から下位のブロックを受け取り、「上位のブロックチェーン」を管理するということ。このように、「中央銀行」が通貨を発行し、「銀行」が取引帳簿を管理するというかたちで、役割を明確に分けている。

このようなハイブリット型のデジタル通貨(チャイナコイン)は、中国も同じように構想を公表している。

ブロックチェーンによる国際送金

ブロックチェーンの応用先として期待されているもののもう1つとして、「国際送金」もある。これはクロスボーダー・ペイメントとも呼ばれ、年間58兆円という巨大な額に登り、出稼ぎ労働者による本国への送金が多く含まれている。

現状の国際送金は、SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)という組織が中心となり、国際送金を行っている。各国の各銀行は、「コルレス銀行」との間で契約を結び、お互いに口座(コルレス口座)を開設し合って、個別に相手行のために資金の受払いを行う。このコレレス銀行間における国際的な送金メッセージの通信を行っているのがSWIFT。このコルレス銀行を通じた国際送金が、コストや時間がかかり、さらにコストが不透明という問題があり、ユーザーの不満を買っている。

こういった問題をブロックチェーンを使って解決できないか挑戦しているのが「リップル・プロジェクト」だ。国際送金を安価にリアルタイムに行うことを目指している。このプロジェクトは、サンフランシスコを拠点にしているリップル・ラボ・インクというスタートアップが主導している。

リップル・プロジェクトでは、ブロックチェーン関連技術を使って、銀行と銀行がネットワークで直接つながり、分散型台帳で情報を共有しつつ、送金を行うというモデルを構築している。これにより、複雑な仲介の過程がなくなり、リアルタイムで効率的に国際送金ができるものとしている。リップルには大手銀行の参加が相次いでおり、すでに27カ国にまたがる送金が可能で、参加行も約100件に達し、これはSWIFTネットワークの参加行の1万1千行と比べると1%とまだ少ないが、今後どんなペースで拡大していくのか注目されている。

終わりに

上記でまとめたようにたくさんの応用例やモデルが解説されており、さらに本書にはもっと詳しく書かれているので、興味のある方は是非一読を。まとめきれなかったが、証券決済に関しても詳しく書かれており、こちらも実現すると社会的インパクトは大きそう。すごくオススメです。

参考